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もふく

喪服

久生 十蘭

「文學界」1957(昭和32)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,793 字 · 24 页

青空文庫

浜口 じゃ、やっぱり……

秋元 ……それはもう、どうしたって助かるわけはなかったのですから。

遠くから救急車のサイレンの音が聞え、だんだん近くなり、間もなく、門のあるあたりでとまる。

秋元 ああ、来たようですね。

浜口 一郎が帰ってきた……みんなで玄関でお迎えしよう。

浜口、静江、美紗、立ちあがる。八穂だけが籐椅子に残る。

静江 八穂さん、いらっしゃい。

八穂 (動かない)……

静江 どうしたの、八穂さん。

美紗 (八穂に)あまのじゃく。

かつ、入ってくる。

かつ 市役所の埋葬課から電話で、いまそちらへ送った遺体は、行路病者の扱いになるので……

秋元 行路病者? そんな無礼な……

かつ 根岸台のガレージからフォードを盗みだした、自動車泥なんだそうでして、お引取りになるなら、手続きをしていただきたいと申しておりますが……

静江 (秋元に)秋元さん、これはどういうことなんです?

秋元 (狼狽する)いや、どうも……

八穂 おやおや。

かつ (浜口に)埋葬課の電話、どう返事いたしましょう。

浜口 (当惑して)そんなものを持ちこまれても……(かつに)さきほど引取ると申しましたが、人ちがいだったので……