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きつえんよんじゅうねん
喫煙四十年
寺田 寅彦
「中央公論」1934(昭和9)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,500 字 · 17 页
はじめて煙草を吸ったのは十五、六歳頃の中学時代であった。自分よりは一つ年上の甥のRが煙草を吸って白い煙を威勢よく両方の鼻の孔から出すのが珍しく羨ましくなったものらしい。その頃同年輩の中学生で喫煙するのはちっとも珍しくなかったし、それに父は非常な愛煙家であったから両親の許可を得るには何の困難もなかった。皮製で財布のような恰好をした煙草入れに真鍮の鉈豆煙管を買ってもらって得意になっていた。それからまた胴乱と云って桐の木を刳り抜いて印籠形にした煙草入れを竹の煙管筒にぶら下げたのを腰に差すことが学生間に流行っていて、喧嘩好きの海南健児の中にはそれを一つの攻防の武器と心得ていたのもあったらしい。とにかくその胴乱も買ってもらって嬉しがっていたようである。
はじめのうちは煙を咽喉へ入れるとたちまち噎せかえり、咽喉も鼻の奥も痛んで困った、それよりも閉口したのは船に酔ったように胸が悪くなって吐きそうになった。便所へ入ってしゃがんでいると直ると云われてそれを実行したことはたしかであるが、それがどれだけ利いたかは覚えていない。それから、飯を食うと米の飯が妙に苦くて脂を嘗めるようであった。