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とらわれ

囚われ

豊島 与志雄

「早稲田文学」1915(大正4)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,848 字 · 42 页

青空文庫

彼等は何とはなしにただじっと互の心を探るように黙ってしまうことがあった。そして孝太郎は一人で、どうにかしなければ、どうにかしなければ……と苛ら立った。

或晩皆で茶の間に集った時、富子の顔には執拗な高慢の影がさしていた。そしてその凡てを反撥せんとする冷静と、恒雄のじっと動かない瞳とが、相互にある反映をし合って昂じてきた。で孝太郎は勉めて快活を装った言葉を発してみたけれど、すぐに恒雄と富子との緊張した沈黙に感染して黙り込んでしまった。

「葡萄酒を少しくれないか。」と恒雄が云った。

富子は黙ったまま立ち上って壜とグラスとを持って来た。それから女中の手から水菓子の盆を受け取って恒雄の前に置いた。そして「はい。」と云った。

恒雄はその言葉に眉をぴくりとさした。それでも黙ってグラスを干した。

「どうです。」と恒雄は孝太郎にもそれをすすめた。

「今御飯を召し上ったばかりなのに……。」と富子がはじめて口を開いた。

孝太郎は苦しくなってきた。

「妙にむし暑いような晩ですね。」と彼は云って、そっと座を立った。その時ふと富子の顔を見たら、冷い瞳の光りが彼の胸を射た。

孝太郎は障子を開けて縁側に出た。