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しじゅうふわく
四十不惑
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,633 字 · 26 页
「課長さんはアベコベね」
と言った。
「何ですか?」
「私達は余所へ行くと猫をかぶりますけれど、課長さんはお家でかぶっていらっしゃるから」
「そう見えたかね?」
「はあ。奥さまが怖いんでしょう?」
「そんなことはない」
「いゝ奥さまね。御親切で」
「よく届くんだ。賢夫人だから、目が届き過ぎて困ることもあるんだ」
その中に妻は小柴さんにお茶を教えたいと言い出した。小柴さんが自発的に訪ねて来るようになってからだった。妻は茶道に造詣が深い。少くとも京都へ行って、千家の表だか裏だかの免状を貰って来ている。姪に教えていたが、嫁に行ってしまったので差当りお弟子さんがない。英語と違って、お茶は無暗に教えたいものらしい。
「どうでしょう? あなた勧めて下さいませんか?」
「さあ」
「お厭?」
「厭ってこともないが、先方が希望しているかどうか分らない」
「分らないから訊いて戴くのよ」
「押売りをするようで変じゃないかな?」
「でも、私はレッキとしたお許しを受けていますわ。あなたは英語を教える免状を持っていらしって?」
と妻は忽ち挑戦的になった。論理が違っている。免状の問題でないのに免状を振り廻す。