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としょかんほうをちほうのばんにんのてに
図書館法を地方の万人の手に
中井 正一
「出版ニュース」1950(昭和25)年5月上旬号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 1,589 字 · 4 页
三年前のことであった。
戦い敗れ、青年の魂の表皮には、まだ生ま生ましい傷痕が赤い肌をあらわにしているときであった。
広島県の田島の青年が、突然、私の家にやって来た。リュックサックから、数十冊の本をものもいわずに引き出して、
「先生、今、大阪から、こんな良い本を、これだけ買ってきました」
昂然と、私に一つ一つの本を示しつつ、その表紙を、撫ぜんばかりに示すのであった。
その一つ一つの本を、何人の青年が、そのきらめく瞳で、驚きと、疑問の表情で取り組むかを想像しながら、私は、何となく、頭を下げる思いであった。
彼は、また一つ一つの本を大切にリュックサックにしまって、再び、昂然と、田島に向かって、という足どりで、私の家を去った。
私は、何かやるせないような心持ちで、ひとり残ったのである。
実に、終戦直後の田舎の街では、良書は、いわば、貨幣のかわりをしていた。肉にも変われば、酒にも変わった。岩波書店の本は、地方書店には出なかった。先ず、菓子屋か、肉屋かの息子の手に渡ったのであった。図書館のように、一冊の本を買うのに稟議の印が三ヵ月もかかるところでは、良書はまわってこなかったのであった。