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よせ

圓太郎馬車 正岡容寄席小説集

正岡 容

正岡容『圓太郎馬車 正岡容寄席小説集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:寄席、円太郎馬車、円朝花火、初看板。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,226 字 · 295 页

青空文庫

泪に濡れた今松の目に、新堀端の枯れ柳が行く手で寒々と揺れていた。

鯉寺の前にはいつものおでん屋の灯が赤かった。

この道。

浅草新堀端のこの道。

雨が降っても風が吹いてもお艶ちゃんは山の宿へ、今松は駒形堂のそばの鶴助の家へ。

佐竹や三筋町界隈の寄席の戻りには、きっと二人、こうしてこの道を歩いた。

だが――。

それももう今夜限りかと思えば、今松は寂しくて寂しくてならなかった。

いや、寂しいどころじゃない。

明日からこの世の中での頼る人がまたひとり減るのかと思えば、ゴソッと身体の一部を揉ぎ取られる思いだった。

島がくれゆく京洛の船を呼び返している俊寛僧都の悲しみが、生々しい実感で今松の胸へと伝わってきた。

よしとくれ。

後生だからお艶ちゃん、三河屋へゆくのだけはよしとくれ。

できることなら、こうやって、駄々ッ子のようにいつまでも地団駄踏んでいたかった。

「ア、そうだ」

急に懐中から今松は、ところどころ少し革の破れたがま口を出して、

「じゃ、こうしよう。あるだけのお銭、お前さんにあげちまおう。これでお艶ちゃん、三河屋へゆくことだけは」

今松がお玉ヶ池のいいお医者の養子だったということだけは、かねてお艶も聞き知っていた。