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よせ

圓太郎馬車 正岡容寄席小説集

正岡 容

正岡容『圓太郎馬車 正岡容寄席小説集』。同一底本的分册已合并为一书。收入:寄席、円太郎馬車、円朝花火、初看板。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 147,226 字 · 295 页

青空文庫

早くあなたが日本一の古今亭今松って言われるように、どうかなって」

ワザと元気な調子で言った。

が――もうそのときは再び今松は石のように黙りこくってしまっていた。

またしても、なにを話しても、首を振るばかりだった。

三筋町の通りへ出るまで、とうとう黙ったまま二人は歩きつづけた。

戸を閉めきった家々の中で、「うさぎや」という駄汁粉屋の灯が、凩に吹かれてまたたいていた。

そこは二人が寄席の帰りに、きまって食べに入る馴染みの店だった。

「食べてゆこうよ今松さん」

スラリとした姿を灯のなかに浮かせてお艶は、足を停めたが、

「やなこッたイ。へッ、お汁粉ンなかから百八十円出てきやしめえし。お艶ちゃん、達者で暮らしな」

丑松に別れる直侍のようなことを言うと、そのままピューッと今松は真一文字に駆け出していった。

みるみる真黒な姿が闇の中へ、溶け込んでいった。

あの人、私と一緒になりたいのじゃないのかしら。

ジーッと行く手を見送りながらお艶は、思った。

それならそうといっそハッキリ言ってくれればいいのに。

あの人なら、きっと入谷のお師匠さんの後継ぎになれるとも思っているのに。