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どげざ

土下座

和辻 哲郎

「光」1921(大正10)年10月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,321 字 · 5 页

青空文庫

それとともに現在の社会組織や教育などというものが、知らず知らずの間にどれだけ人と人との間を距てているかということにも気づきました。心情さえ謙遜になっていれば、形は必ずしも問うに及ばぬと考えていた彼は、ここで形の意味をしみじみと感じました。

彼と父親とがそうして土下座しているところへ、七十余りになる老人が、仏前に供えた造花の花を二枝手に持って、泣きながらやって来ました。「おじいさんの永生きにあやかりとうてな、こ、こ、これを、もろうて来ました。なあ、おじいさんは永生きじゃった――永生きじゃった――」涙で声を詰まらせながら、酒に酔うたもののようにふらふらしながらこの老人は幾度も同じことを繰り返して造花を振り回しました。祖父は九十二歳まで生きたのです。そうしてこの祖父が生きていたことは、この界隈の老人連に対して、生命の保証のように感じられていたに相違ないのです。その祖父が死んだ、それがこの老人連にどんな印象を与えたか、――彼はやっとそこに気づきました。彼が物心がついた時には祖父はもう七十以上で、その後二十年の間、この界隈の老人が死ぬごとに、幾度となく祖父の感慨を聞いたものでした。