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どげざ
土下座
和辻 哲郎
「光」1921(大正10)年10月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,321 字 · 5 页
昔の同じ時代を知っているものが、もうたった三人になった、二人になった、一人になった、自分ひとり取り残された! あるいはまた、自分の次の時代のものさえも、もうほとんど残っていない! 祖父はそれを寂しそうに話しました。しかしこの祖父の心の寂しさを、彼は今まで気づかないでいたのです。彼はただ孫の立場で、この善良な、しかし頑固な祖父のために、いかに孫たちがよけいな苦労をしなければならないかをのみ感じていました。今祖父を葬ったその場で、永い間の祖父の心の寂しさを、この造花を振りまわす老人から教わりました。彼の知らなかった老人の心の世界が、漠然とながら彼にも開けて来ました。彼は土下座したために老人に対して抱くべき人間らしい心を教わることができたのです。
彼は翌日また父親とともに、自分の村だけは家ごとに礼に回りました。彼は銅色の足に礼をしたと同じ心持ちで、黒くすすけた農家の土間や農事の手伝いで日にやけた善良な農家の主婦たちに礼をしました。彼が親しみを感ずることができなかったのは、こういう村でもすでに見いだすことのできる曖昧宿で、夜の仕事のために昼寝をしている二、三のだらしない女から、都会の文明の片鱗を見せたような無感動な眼を向けられた時だけでした。