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とち

土地

豊島 与志雄

「青年」1924(大正13)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,719 字 · 22 页

青空文庫

平助は空を仰いで天気模様を見た。それから音吉の方へ向いて云った。

「余り一つことをくよくよ考え込むもんじゃねえよ。」

彼等が家へ帰ってゆく頃には、夕暮の薄靄が野の上を蔽うていた。村落のまわりには夕炊の煙がたなびいて、西の空は赤く夕映に彩られていた。帰り後れた二三の鳥が、塒を求めて空を飛んでいた。遠くに牛の鳴く声が長く響いて、そのまま静に日が暮れていった。

そして翌日になると、輝かしい朝日の光を受けて、晴々とした平助の顔と打沈んだ音吉の顔とが、また荒地の上に見出された。

朝の四時頃である。

東の空がほのぼのと白んできて、重く垂れていた靄が静に流れ出した。山蔭や森蔭にはまだ夜の気を湛えながら、爽かな明るみが地平の彼方から覗き出し、それにつれて星の光が薄らぎ、微風が野の上を渡っていった。そしてしっとりと露の下りた草木の葉が、瑞々しい青い匂いを空中に散じていた。

音吉は足早に村を出て、街道を進んでいった。新らしい紺飛白の単衣に白縮緬の兵児帯を巻きつけ、麦稈帽に駒下駄をはいていた。

彼は東の空を仰ぎ見た。輝き出した黎明の色と消えかかった星の光とを見ると、不安そうに後ろを振返り見た。