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トソンラン
土城廊
金 史良
「文芸首都」1940(昭和15)年2月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,752 字 · 52 页
収金員達も笑った。そして急に顔をこわばらせ口をきゅっと歪めると黙ったまま立ち去った。
「んだ、これから行って姐さんに訊いてみるだで」爺はそう考えた。
だが肩に支械をかけ泥を踏み分けて婦のいる小屋まで来たとたんに、爺は急に先達を思い出してこわくなり勇気が挫けた。
「出掛けるだよ、先達」
爺はそう云った。
「…………」
「全く大水でな」
「…………」
返事がないので変だと思って怪訝そうに入口を覗き込んだ爺は、われ知らず小屋の壁へぴったり体をすり附けた。婦が子供に乳首を咥えさせて半裸体のまま横様に寝ているのだ。先達はもう出掛けた後だった。胸が激しくときめいた。伏兵でも起きるように、抑えられて来た感情のしぶきがひたひた押し上げて来る。咽喉がかわいてよく声が出なかった。
「姐さん」
婦は深い睡りにおちているらしかった。
「姐さん」爺はもう一度声を切らして叫んでみた。
と、婦は驚いてはね起きた。
「誰だや」
爺はすくみ上った。もう駄目だった。
「う……わっしだよ……う……元三だよ」
「何うしただね」
「わっしあ……う……」爺は何と云っていいか分らなくて、しどろもどろとなったが、そうだ、自分がこれから何か訊くのだったなと思い起して、内心にたっと微笑んだ。