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トソンラン

土城廊

金 史良

「文芸首都」1940(昭和15)年2月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,752 字 · 52 页

青空文庫

「……どうも、そのう、こんげ云うなあ……う……つまり……わっしあ、一つ訊きてえことがあるだよ」

「何だや」

「う……つまり……どうも……こう訊くのあ悪えが、う……姐さん、ふんとうに……う……城内に行くだかね?」

「爺やは一体何を云うだね」婦は不審そうに質ねた。

「いや……う……姐さん、ゆうべ云うたでねえかよ……う……わしさ城内に部屋を見附けれや、う……来てくれるかちゅうんだよ……わっしあ……これから行って捜すだで」

「まあ、爺ったら」婦はうすら笑いを浮べて溜息をついた。「そう出来る結構な身分なら、心配はねえさ……」

「ふんとけえ」爺は目を瞠って叫んだ。「だら、う、わし行って来るだよ……」

――元三と先達の婦がくっついたという無実な噂が土城廊に拡がったのは、徳一の老婆がこの光景を見届けてからのことである。狂女は穢い皺くちゃな顔に黒豆のような目を光らせて淫らな声できーきー笑った。驚いて元三が振り返って見ると、老婆は羽根でも生えたように土城の上の方へととんで逃げて行った。

狂女はその後誰かに会う毎に、

「なあ、お前さん」と声をひそめ茶色の手を振ってみせた。

「知ってるだかね」