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もぐら
土竜
佐左木 俊郎
「文章倶楽部」1926(大正15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,991 字 · 21 页
」
「なんだ? 巡査様だがもしせねえ。」
養吉は、雑草の中から伸びあがった。
「なんだど? 巡査様だど?」
その訊き方はちょっと狼狽ていた。同時に梅三爺の顔には、さっと不安の表情が流れたようであった。「市平が、何か悪ごどでもしたのであんめえがな?」と彼は思ったのであった。彼は、伜の市平のことについては、ただそればかりが気になっているのであった。
「巡査様、なにしに来たべな?」と、梅三爺は不安の中から繰り返した。
「白いズボンはいで、黒い服だげっとも……巡査様でねえがな?」
よしはぽかんと口をあけて、雑草をわけて近付いて来る白ズボンの人を、背伸びをして見極めようとした。蒼白い飴のような洟が、今にも口の中に垂れ込みそうであった。
眼鏡をかけた白ズボンの青年は、いよいよ梅三爺とは五六間程の距離になった。爺は、それが巡査でないことだけは判った。が、どうも役人らしいので、二度三度と、四度までも続けざまに頭を下げた。
「頭せえ下げて置けば、大概間違いはあんめえから……」という意識が、無意識のうちに彼の心に動いていたのであった。
「竜雄です。天王寺の竜雄です。」と、青年は名乗った。