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ざいがくりゆう

在学理由

豊島 与志雄

「日本評論」1938(昭和13)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,167 字 · 21 页

青空文庫

」

「私自身の道徳です。卒業して働かないのは、不道徳です。」

「学校にわざわざぐずついているのは、君の言葉で、不道徳じゃないのかい。」

「不道徳とは思いません。勉強のためです。その上、学校にいる方が、信用されます。」

「信用……何の信用だい。」

「世間の信用です。先生でも、学生の私なら、信用なさるでしょう。下宿屋とか、アパートとか、印刷屋でも、学生なら信用します。卒業して働かないと、いくら勉強してると云っても信用しません。」

「然し君、信用というものは、身分に対するものじゃなくて、人間に対するものだろう。」

「そう思います。」

「そんなら、君の話は分らんよ。」

「世間が分らないんでしょう。」

「そうも云えるが……。」

矢杉は口を噤んだ。何やら腑におちるようなおちないようなものの中から、李の一面にはっきり触れた気がしたのだった。李の在学理由、故意に引延された在学の理由は、要するに、彼一己の道徳と対世間的策略との二つに依るものらしい。前者には、一種の自己偽瞞の気味があるが、その底に何か他のものが潜んでいるらしい。後者には、半島出身者の苦渋が見えるが、然し一般に云っても恐らく当ることであろう。