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ざいがくりゆう
在学理由
豊島 与志雄
「日本評論」1938(昭和13)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,167 字 · 21 页
そして如何なる雑談の折にも、彼がはっきりした断定の言葉を吐露するのを、吉村は見落さず、次第に好感がもてるようになった。
二ヶ月ばかりたった頃であったろうか、彼は数枚の原稿を持って来た。吉村はその短いものを、彼の前で読んでみようとした。
「お預けしておきます。あとで読んでみて下さい。」と李は云った。
その言葉が、平素の李には不似合なので、吉村は却って好奇心を起した。
李の原稿というのは、小説とも小品ともつかないもので、筆致にも精粗のむらがあり、文章にも所々怪しいところがあったが、大体次のようなものである。――尤も、茲に掲出するからには、作意が主で技法はどうでもよいことであるからして、吉村がそれに加筆したならば恐らくこういうものになったろうかと、その結果のものを持出すのである。
題は「おやじ」というのである。
「おやじ」とは周囲の者たちがつけた綽名だ。――四十歳あまりの男で、頭髪はまだ色濃くて硬いが、謂わば丈夫な毛並をむりに間引かれたようで数少く、若い時は美男だったろうと思われる細長い顔立には、生活の混濁を示すたるみが深く現われ、眼だけがへんに生気を帯びている。