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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

お光には何故かどんな人間でも甘えてみたいような気を起こさす穏やかな温かさが漲っていた。

「ほんとうにね、どうなってゆくのでしょうかね」お光は、そう言って、静かに仕上の鏝をあてた。廓の不景気がもっと四、五日早く来てくれたなら、そうしたら茂子や小妻も助かったかも知れない。茂子や小妻がああした残酷な死にようをしないで生き残っていたら、どれほどこの不景気なこの稼業の暇を悦んだか知れまい。――悦ぶであろうと思われる二人はすでに死んでしまった。もう晩い、おそい、とお光は考えて、涙ぐんだ。

しかし一方、お幸や時子や菊龍や富江や鶴子には、暗い人気の少ない夜、酒に酔いしれない夜、男の膚の温か味に眠らない夜を迎えることは一種の苦痛であった。アルコール中毒患者が、アルコールの気の感じないときは半死の状態にあるように、彼女等は一種の苦痛を伴ったぼんやりした倦るさに苦しめられた。

「随分つまらないじゃないの」

「もう三晩もつづけてぼんやりこうしているのじゃなくって、ほんとうに人を馬鹿にした」

「時ちゃん、××さんに電話をかけてお招びな」

「あたしも――ちゃんを招ぼうかしら、ね、富ちゃん」