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ちじょう

地上

島田 清次郎

地に潜むもの

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页

青空文庫

彼にはこの仕事が何より厭だった。自然彼は粗末にして、お年という髪の毛の薄いそっぱのひどく縹緻の悪い三十過ぎた女中頭に小言を言われた。しかし、前庭の花崗岩を敷きつめた門内を掃くことは彼には一つの楽しみだった。薄い桜の花片が湿った土の上や花崗岩の上に散り布いているのを掃き清めて水をうったあとのすがすがしさ。彼がはじめての朝、竹箒を杖のようにして道側の桜樹を見上げていると彼の足に温かいなつかしい異様な感触がした。それはこの家の飼犬のポチが新米の彼の足に接吻したのである。栗毛の、白い斑点のある肥えた、ふさ/\した豊かな耳と、人間の眼のように表情深い眼をもったポチは、彼の足をなめてはふさ/\した頭を彼の踝におしつけた。彼は思いがけぬ可愛い動物の好意をうけいれて、彼の頭をなでてやった。彼の朝の最後の用事はこのポチに昨日のあまりの飯と牛肉の煮出しとを混ぜてやることである。ポチと彼とは仲よくなってしまった。よくいけば女中達と一緒にすますこともあったが、大抵は台所の横の、O伯爵家の暗い竹藪に接した長四畳の片隅で、急ぐときはポチに食わした残りの冷飯に生煮えの熱い味噌汁を添えて食うのであった。