轻松读懂日语经典作品
ja-reading.com
轻松读懂日语,轻松阅读日语。在线阅读日语经典作品。支持在阅读过程中显示假名、查询生词、翻译句子。
ちじょう
地上
島田 清次郎
地に潜むもの
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 175,250 字 · 350 页
「わたし眠くなって来ました。小母さん、失礼ですがわたし一眠りして来ましてよ」と冬子は笑いながら去った。まだ春風楼にとっては真夜中であるべき午前八時であった。
春風楼の茶の間の正面に懸けられてある大時計が、午前十時の音をごおん/\と響かせた。家のいっぱいに混沌とした濁った眠りが暗鬱にとざされている。さっき中途で眼を醒まして卵酒でいっぱい引っかけていた主人も快い朝の酔いをそのまま、昨夜晩くなって眠りほうけている女将の横にしがみついて寝入ってしまった。電燈は消滅して家中が薄暗く、そして静寂だった。灯の下に動いていた夜の華やかさは、何処に見出されようもなかった。表の細かい格子目の硝子越しに真夏近いじり/\と強烈さの増してくる太陽の光が、電燈の消えた店の部屋に射し入り、照らし出していた。女達はその朝の光に浮かぶように眠れる姿をあらわしていた。部屋いっぱいに並んだ八つの寝床、枕元近い板敷に並んだ鏡台、壁際に総桐の四台の箪笥、その上に二間の吊棚があって、使いこなした、くな/\の平常の帯らしいものが赤い下着と一緒に垂れ下っている。脱ぎすてたままの着物が幾重ねも、赤い裏を裏がえしにし、襟垢や白粉のついた黒い生繻子の襟がべと/\に光ったまま棚に押しこめてある。