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じごくかいどう
地獄街道
海野 十三
「モダン日本」1933(昭和8)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,814 字 · 22 页
これがあの沈着な辻永とはどうして思えよう。彼はクルリとふりむくと、今度は表戸を蹴破るようにしてサッと外へ飛び出した。私には何もかも判った。実に辻永は例の妖酒を自分が飲んでしまったのだ。
「オイ待て、辻永」私も続いて戸外にとび出した。もう十二時に間もない街はヒッソリと静かだった。辻永の姿はと見ると、向うの軒灯の下に転がるように駈けている黒い影がそうであろうと思われた。私は彼の名を呼びながら追い駈けたがとても追いつけなかった。
彼の話にある川っぷちを方々探したが見えない。桜ン坊も見当らない。探し疲れて橋の欄干に身を凭せかけた。もう時間はかなり経っているのにと心配していると、そこへ一台の自動車が風のように現われて、サッと通りすぎた。
「呀ッ! 辻永ッ」
私は車内に、たしかに辻永の姿を認めた。彼の傍には確かにあの桜ン坊というガールがピッタリと倚りそっていた。私は路の真中まで駈け出したが、もう間に合わなかった。どうやら私は違った側の川っぷちを探していたものらしい。
そこへ向うからパタパタと一人の女が近づいてきた。私の方へ向ってくるようだ。私はギョッとした。例のガールででもあって、そして矢張り私があの妖酒を飲まされていたのであったら、ああ其の恐るべき先は……。