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じごくかいどう

地獄街道

海野 十三

「モダン日本」1933(昭和8)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,814 字 · 22 页

青空文庫

「ハテこれは綿やの広告だ。それも塀に貼ってあるのを引き剥いだものらしい」

辻永は石炭庫の傍から、真黒になった紙片を拾い出して、私に示した。

「塀というと――」

「塀というと、あれだ。あの黒い塀だッ。あの塀に、これが貼ってあったのだ」

石炭庫の向うに、大分痛んだ塀が見える。辻永は身を翻すと駈け出した。機械体操をするように、彼はヒョイと塀に手をかけるとヒラリと身体を塀の上にのせた。

「これは大変なところだぞ」

彼は声をかえて駭いた。そして俄かに身体を浮かすと、ドッと地上に飛び下りた。

「オイどうしたんだ」

「イヤこれは実に大変な場所だよ、君」

そういって辻永は、心持顔色を蒼くして説明をした。それによると、彼がいまよじのぼった塀の外は「ユダヤ横丁」という俗称をもって或る方面には聞えている場所だった。それは通りぬけのできる三丁あまりの横丁にすぎなかったが、ユダヤ秘密結社の入口があった。なんでも夜中の或る時刻に団員をその入口へ案内してくれる機関があるらしかったが、その様子は分明でない。多分団員の服装か顔かに目印をつけて、その団員が通るところを家の中から見ている。ソレ来たというので、スイッチかなにかを入れると、地面がパッと二つに割れて、団員の身体を呑んでしまう――といったやり方で、団員を結社本部へ導いているのじゃないかという