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ちきゅうぎ
地球儀
牧野 信一
「文藝春秋 第一巻第七号(七月創作附録号)」文藝春秋社、1923(大正12)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,115 字 · 9 页
だが、私が用うのはいつもこの手段のほかはなく、そうしてその場限りで何の効もないので、今ではもう母の方で、もう聞き飽きたよという顔をするのだった。
「もう家もおしまいだ。私は覚悟している」と母は言った。
私は、母が言うこの種の言葉はすべて母が感情に走って言うのだ、という風にばかりことさらに解釈しようと努めた。
「だけど、まアどうにかなるでしょうね」
私は何の意味もなく、ただ自分を慰めるように易々と見せかけた。こんな私の楽天的な態度にもすっかり母は愛想を尽かしていた。
母は、ちょっと笑いを浮べたまま黙って、煙草盆を箱から出しては一つ一つ拭いていた。
私も、話だけでも、父の事に触れるのは厭になった。
「明日は叔父さんたちも皆な来るでしょう」
「皆な来ると言って寄こした」
また父の事が口に出そうになった。
「躑躅がよく咲いてる」と私は言った。
「お前でも花などに気がつくことがあるの」
「そりゃ、ありますとも」と私は笑った。母も笑った。
「ただでさえ狭いのにこれ邪魔でしようがない。まさか棄てるわけにもゆかず」
母は押入の隅に嵩張っている三尺ほども高さのある地球儀の箱を指差した。