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ちきゅうぎ

地球儀

牧野 信一

「文藝春秋 第一巻第七号(七月創作附録号)」文藝春秋社、1923(大正12)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,115 字 · 9 页

青空文庫

祖父の十七年の法要があるから帰れ――という母からの手紙で、私は二タ月ぶりぐらいで小田原の家に帰った。

「このごろはどうなの?」

私は父のことを尋ねた。

「だんだん悪くなるばかり……」

母は押入を片付けながら言った。続けて、そんな気分を振り棄てるように、

「こっちの家はほんとに狭くてこんな時にはまったく困ってしまう。第一どこに何がしまってあるんだか少しも分らない」などと呟いていた。

「僕の事をおこっていますか?」

「カンカン!」

母は面倒くさそうに言った。

「ふふん!」

「これからもうお金なんて一文もやるんじゃないッて――私まで大変おこられた」

「チェッ!」と私はセセラ笑った。きっとそうくるだろうとは思っていたものの、明らかに言われてみるとドキッとした。セセラ笑ってみたところで、私自身も母も、私自身の無能とカラ元気とをかえって醜く感ずるばかりだ。

「もうお父さんの事はあてにならないよ。あの年になってのことだもの……」

これは父の放蕩を意味するのだった。

「勝手にするがいいさ」

私はおこったような口調で呟くと、いかにも腹には確然としたある自信があるような顔をした。こんなものの言い方やこんな態度は、私がこのごろになって初めて発見した母に対する一種のコケトリイだった。