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ちきゅうぎ

地球儀

牧野 信一

「文藝春秋 第一巻第七号(七月創作附録号)」文藝春秋社、1923(大正12)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,115 字 · 9 页

青空文庫

「どうしても俺にはこの世が丸いなどとは思われないが……不思議だなア!」祖父はいつものとおりそんなことを言いながら二三遍グルグルと撫で回した。「ええと、どこだったかね、もう分らなくなってしまった、おい、ちょっと探してくれ」

こう言われると、母は得意げな手つきで軽く球を回してすぐに指でおさえた。

「フェーヤー? フェーヤー……チョッ! 幾度聞いてもだめだ、すぐに忘れる」

「ヘーヤーヘブン」と母はたちどころに言った。

それは彼の父(祖父の長男)が行っている処の名前だった。彼は写真以外の父の顔を知らなかった。

「日本は赤いからすぐ解る」

祖父は両方の人差指で北米の一点と日本の一点とをおさえて、

「どうしても俺には、ほんとうだと思われない」と言った。

祖父が地球儀を買ってきてから毎晩のようにこんな団欒が醸された。地球が円いということ、米国が日本の反対の側にあること、長男が海を越えた地球上の一点に呼吸していること――それらの意識を幾分でも具体的にするために、それを祖父は買ってきたのだった。

「どこまでも穴を掘って行ったらしまいにはアメリカへ突き抜けてしまうわけだね」

こんなことを言って祖父は、皆なを笑わせたり自分もさびしげに笑ったりした。