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ちきゅうぎ

地球儀

牧野 信一

「文藝春秋 第一巻第七号(七月創作附録号)」文藝春秋社、1923(大正12)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,115 字 · 9 页

青空文庫

「この間もひどく酔って……外国へ行ってしまうなんて言いだして……」

「純一が! ばかな」

「むろん、あの臆病にそんなことができるはずはありませんがね」と母は笑った。

「気の小さいところだけは親父と違うんだね」

客が皆な席に整うと、私は父の代りとして末席に坐らせられた。坐っただけでもう顔が赤くなった気がした。

「今日はわざわざ御遠路のところをお運びくださいまして……(ええと?)じつは……その誠に恐縮なことで……そのじつは父が四五日前から止むを得ない自分自身(オッといけねエ)……ええ、止むを得ない自分用で、じつはその関西の方へ出かけまして、今日は帰るはずなのでございますがまだ……それで私が……(チョッ、弱ったな)……どうぞ御ゆるり……」

私はこれだけの挨拶をした。括弧の中は胸での呟き言だった。ちゃんと母から教わった挨拶でもっと長く喋らなければならなかったのだが、これだけ言うのに三つも四つもペコペコとお辞儀ばかりしてごまかしてしまった。そしてこの挨拶のしどろもどろを取りなおすつもりで、胸を張ってできるだけもっともらしい顔つきをして端坐した。だが脇の下にはほんとうに汗が滲んでいた。