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うもれたにほん

埋もれた日本

和辻 哲郎

――キリシタン渡来文化前後における日本の思想的情況――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,399 字 · 43 页

青空文庫

したがって帰参のころには一向宗の熱は醒めていたと推測するほかはない。しかし一向宗の信仰に没入して行くような性格は、依然として変わらなかったであろうし、そのゆえにキリシタンに対する理解や同情があったであろうことも、察するに難くない。それがおのずから宣教師によき印象を与えたのであろう。が、周囲の情況は彼をキリシタンに近づけるよりは、むしろ儒教の方へ押しやったのである。そこで同じ性格の佐渡守が、『本佐録』において、熱烈な儒教の尊崇者として現われることになる。対象は変わって行くが、態度は同じなのである。天道の理、尭舜の道、五倫の教えは、ほとんど宗教的な情熱をもって説かれている。天道というのも、ここでは「天地の間のあるじ」なのであって、抽象的な道理なのではない。その「あるじ」が万物に充満していると説くところは、やや汎神論的に見えるが、しかしそれをあくまでも天地の主宰者として取り扱うところに、佐渡守の狂信の対象であった阿弥陀仏や、キリシタンの説いていたデウスとの相似を思わせる。そういう点を考えると、この書が佐渡守に帰せられていることは、非常に興味深いことになるのである。