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しおばな

塩花

豊島 与志雄

「世界」1946(昭和21)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,421 字 · 25 页

青空文庫

いま山口は、得意でもあり不満でもあった。精神的貞節論に知名の先輩達が賛成してくれたのが得意であり、それを戦争犯罪などに自ら結びつけたのが不満だった。それは彼の身心清潔法の一部を成すもので、恋人の前でこそ語るべきものだったのである。

得意と不満との交錯は彼を大胆ならしめた。彼はそこにあった庭下駄をつっかけて、外に出た。一面に斜陽を浴びた庭はなにか寒々としていた。その彼方、袖垣の向うに、濃い煙がたち昇っていて、子供の笑い声がした。その方へ彼は歩いていった。

空樽や木の株がころがってるその空地の真中で、落葉が焚かれていて、煙りがちなのを、男の子が頬をふくらまして吹いていた。

「焚火をしているのかい。どれ……。」

山口は木の小枝をとって、煙ってる落葉をかきたてようとした。子供はそれを遮った。

「いけないよ。」

「だって燃えないじゃないか。」

「いけないよ。」

積みかさなって煙ってる落葉を、子供はしきりにかばう様子だった。

のびのびと発育した体躯の大きな子で、もう学齢ほどらしいのに、長い髪の毛を女の子のように額に垂らしていた。織目の見える古生地の粗服を着ていたが、それと対照に、ふっくらとした頬が如何にも瑞々しかった。