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しおばな
塩花
豊島 与志雄
「世界」1946(昭和21)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,421 字 · 25 页
子供は急に嬉しげな表情に変った。建物の蔭から、彼女が、魚住千枝子が、出て来た。
いつもの端麗な顔だった。羽織なしに、紫と臙脂との縞お召の襟元を、窮屈そうなほどきりっと合せていた。その身扮で藁俵と枯枝とを胸いっぱいに抱えていた。
彼女は黙って山口を見た。
山口は会釈をした。
「お座敷の方へ、いらっしゃいませんの。」
「先程から、もう充分、御馳走になってきました。」
彼女は胸の荷を焚火のそばに投りだして、子供の方へ言った。
「たくさん焚物を貰ってきましたよ。」
子供相手に、彼女はひどく嬉しそうだった。胸元や、帯の御所車の刺繍から、ちょっと埃を払っただけで、まだ藁屑をそこらにつけたまま、持ってきた芋俵らしいのを焚火にくべた。
火は横にはい、それから一斉に燃え上った。焔の先は人の顔ほどに達した。
子供は声を立てた。千枝子は飛びのいて、棒切れを拾い、俵の燃え残りを押えつけた。
山口は呆気にとられた。
「こんなに燃やして、どうなさるんですか。」
千枝子は返事をせずに、ただ自分の心に答えるように微笑した。
俵が燃えつきると、枯枝を、こんどは少しずつくべた。子供は枯枝をぽきぽき折った。