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しおばな

塩花

豊島 与志雄

「世界」1946(昭和21)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,421 字 · 25 页

青空文庫

それはすべてに於てそうだ、と彼は漠然と咄嗟に感じた、然しそれは恋愛を妨げるものではなかった。

「私のことも、いろいろお話ししたいし、あなたのこともいろいろお聞きしたいし、とにかく、あなたの身の上のことを聞かして下さいませんでしょうか。」

彼女は立ち上った。その額や頬から血の気が引いて、緊張した皮膚が透明なまでに冴えた。そして刺すような眼眸で、じっと彼を見下した。それに彼は対抗出来ず、すぐに眼を伏せて、灰の中をやけに掻き廻した。ひどい失策をしたように感じた。

子供が笊をさげて走って来た。

千枝子と子供は、残りの芋を笊の中に入れた。そして、彼女は青磁の鉢を持ち、子供は笊を持った。

「わたくし、そのようなことは一切、お話しできません。」と彼女は言った。

それは先刻の言葉に対する返事だと、山口にも分った、そしてその返事を、彼は独り藁灰のそばで噛みしめた。灰の中には、まだ二つ三つの小さな芋が残っていた。彼はそれを拾いあげたが、すぐに投げ捨てた。

すると局面が変ったのを、彼は感じた。彼は彼女の姿を思い浮べた。お召の着物や刺繍の帯に、汚れた芋俵を抱えていた彼女、青磁の鉢に、灰まみれの焼芋を盛った彼女、その無頓着なやり方が、ただ愛すべき子供っぽさに思われた。