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はか

墓

宮本 百合子

「サンデー毎日」1926(大正15)年7月1日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,972 字 · 10 页

青空文庫

荻村の健康は常から苦情がちであったが、風邪がこじれ、肺炎になった。一進一退しているうちに、酸素吸入が必要にまで至った。荻村は五十二歳であった。……

空になった湯呑を手のひらにのせ、幾枝は暫くすくんだようにしていた。が、時計を見ると、疲れた体を引立てるようにして立ち上った。

「――皆でくたびれちゃっても仕様がないから、下の者にも代り合って眠るように、あなた世話をやいて下さいな。――さ、弘もおねなさい。あした学校でしょう」

幾枝は、建てましをしてからそこを城廓のようにして生活していた良人の書斎へ、暗い廊下づたいに戻った。

二

祐之助は、身辺に旋風の袋を持ってあるいているような勢いで入って来た。それは、荻村の臨終の翌日であった。彼は、居並んだ人々にせわしく一わたり頭をさげると、すぐ幾枝に遅参を詫びた。

「――実に驚きましたね、前から悪かったことなんぞちっとも知らなかったんだから、全く、嘘かと思った位だった。家におりゃこんな残念な目に合わないですんだんだが、ちょうど、悪い時には悪いことが重なるもんで、下関へ行っていましてね、停車場へ着換を出させてやっと駈けつけたという訳です、どうぞあしからず御容赦願います」