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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
「いや何でもありません。」と今井は天井を見つめたまま答えた。
「一寸脈を拝見してみましょうか。」
そして中村がにじり寄ろうとすると、今井は手先を挙げてそれを制した。傍から辰代も勧めてみたが、彼は承知しなかった。
「私で不安心でしたら、懇意な内科の医者を呼んであげましょうか。」と中村は云った。
「いいえそうじゃありません。私は医学を信じないんです。」
中村は微笑を洩らした。
「医者の大家には、よくそう云う人がありますが……。」
「医学くらい進歩していない学問はありません。」と今井は云い進んだ。「医学が一番進んでいる、などと云う人がありますが、真赤な嘘です。私はこう思うんです。凡そ天地間のあらゆる生物、または現象には、それに反対の生物や現象が必ずあるものです。そして病気に対して、その直接の反対のものを探し出すのが、医学の仕事でしょう。所が現在の医学では、そういうアンチ療法ということは、ごく僅かしか行われてやしません。行うことが出来ないんです。それで大抵は廻りくどい間接療法ばかりです。間接療法をやってるうちには、病気の方で衰えて、それで癒ったように見えることもありますが、それは偶然の結果で、実を云うと、病気は独りでに自然に癒ったのです。