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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
それを見て、辰代も澄子も何となしに涙ぐんだ。
暫くすると、今井はまた眼を見開いた。
「まだ夜は明けませんか。」
「もうじきでございますよ。」
それから、二人でなお頭を冷し続けてるうちに、今井は本当に眠ったらしかった。
三
翌日になると、今井は熱が去ってけろりとしていた。それでもまだ顔の色が悪く、何処となく力無げな様子だった。も一日くらい寝ていなければいけない、と辰代は説き勧めたが、今井は曖昧な返辞をしながら、朝から起き上って、そして何をするともなく、室の中にぼんやりしていた。
それから引続いて、今井の様子は変ってきた。朝起き上って皆と顔を合せる時には、必ず丁寧に頭を下げた。晩にはよく茶の間に坐り込んで、雑談の仲間に加わった。縁側の前の三四坪の庭に下り立って、植込の間の蜘蛛の巣を指先でつっ突いたり、またはいつまでも屈み込んで、苔類を一々見調べたりした。台にのってる小さな木の箱に、二三十銭の駄金魚が六七匹飼ってあった。そんなものにまで興味を覚えてきたらしく、麩をやっては眺め入った。そればかりではなく、今迄の粗暴なぎごちない身体つきに、何処となく角がとれて、弱々しいしなをすることがよくあった。