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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

頑丈な身体を変にくねくねとさして、指先で頬辺を支えてる様子などは、一寸滑稽に感ぜられた。

「今井さんの様子は、あれから何だか変じゃなくって?」と澄子は母へ云った。

「まだ病気がすっかり癒りなさらないんでしょう。」と辰代は云った。「表面は癒ったようでも、しんに悪い所があって、それが一度にどっとひどくなることがあるものですよ。注意してあげなければいけません。」

そして彼女はそれとなく、身体の調子や気分の工合を尋ねてみた。

「天気がいけないんです。」と今井はいつも答えた。

実際いやな天気が続いた。梅雨期にはいったせいもあろうが、しつっこい雨が絶え間もなく降って、降らなければ陰鬱に空が曇って、何もかもじめじめと汗ばんでいた。今井は縁先に蹲って、その雨脚や曇り空をいつまでも眺めてることがあった。

「今井さんは雨がお好きなの?」と澄子は尋ねた。

「ええ好きです。」と今井は答えた。「雨の降るのを見ていますと、都会の上に雨降る如く、吾が心のうちにも涙降る、というヴェルレーヌの詩を思い出します。」

澄子は喫驚した顔付で、今井の様子を見守った。

「あなたは詩もお読みなさるの。」