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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

一人気を揉みながら、今井の様子をそれとなく窺ってみると、前よりも外出することが更に少なくなったり、室の中に寝転んでいることが多かったり、庭の隅に萠え出てる草の芽に見入っていたり、雨脚を眺めながら涙ぐんでいたり、月の晩には遅くまで窓によりかかっていたり、始終黙って考え込んでいたり、大声に笑うことがなかったりして、何もかもみな病気を想像させるようなことばかりだった。そして彼女は、或る晩地震のことから、本当に彼を病気だときめてしまった。

八時頃だった。中村は病院からまだ帰って来ていなかった。辰代と澄子とが茶の間で、一人は裁縫を一人は学校の下調べをしていた。そこへ可なり大きいのが、どしんと一つきて、それからぐらぐらと揺れた。おやと思うまに、もう小揺れになって、天井から下ってる電燈の動くのや、柱時計の振子の乱れたのなどが、自然と眼についた。それが暫く続いた。

「地震ね!」と澄子は分りきったことを云った。

「何時でしょう。」

「八時少し過ぎよ。」

辰代は胸勘定でもするように頭を動かした。

「五七の雨に四つ旱、というから、まだ雨が続くかも知れませんね。」

そう云ってる所へ、階段に大きな物音がした。