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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

二人が喫驚して眼をやると、息をつめ眼を見張っている今井の顔が、薄暗い階段口からぬっと出てきた。

「どうかなさいまして?」

今井はすぐには口を利かなかった。天井からあたりをきょろきょろ見廻して、それからほっと吐息をついた。

「地震でしたね。」

「まあ、逃げ下りていらしたんだわ。」と澄子が云った。「あれくらいな地震に……。私もっとひどいのだって平気よ。」

今井は何とも云わないで、長火鉢の横に坐って、小首を傾げながら耳を澄した。

「また来るかも知れませんよ。」

「ええ、屹度来るわ。」と澄子は肩をそばめて見せた。「揺り返しは初めのよりひどいと云うから、此度は大変よ。そしたら私、今井さんを負って逃げてあげましょうか。」

今井はなお遠くを聞き入りながら、火鉢の縁にしっかとつかまっていた。

その二人の様子を見比べて、辰代は怪訝な気がした。これまで二三度地震はあったが、それも此度のより強くはなかったが、澄子こそ恐がってはいたれ、今井が恐がったためしはなかった。それなのに此度に限って……。そしていろいろ考え合してみても、今井は病気に違いない、と辰代は考えた。

それにしても変梃な病気だった。