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かわる
変る
豊島 与志雄
「知性」1942(昭和17)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,972 字 · 14 页
乗合バスの標柱が音を立てて転った。
彼はその音を耳にしなかった。相手を打倒したはずみに、よろけて、並木にもたれかかったが、そのままずるずると身体をずらして、そこに屈みこんだ。そして軽い鼾の音を立てた。
すさまじい轟音に、彼は眼を開いた。轟音とは似もつかず、玩具のような電車が彼方へ走っていた。彼はなにか腑におちぬらしく頭を振ったが、立上って歩きだした。
十日ばかり後、関釜連絡船の中で走り書きしたらしい手紙が、木下大五郎から村井の許に届いた。時勢を慨歎する大袈裟な文句の末に、「数々の御教訓に預り」などとお世辞をいい、最後に簡単な意向が洩らされていた。――「単身彼地に帰還致すべく、彼地には小生を待ちわびる女性も有り、彼女と結婚の上、大陸に根を下す覚悟に有之候。」
そこの文句に、村井はちょっと眼をうるまして、彼と飲んだウイスキー半瓶のことを思い出した。その頃には既に、木下大五郎のことは、その帽子や外套の絨毛と共に、この辺の数軒の小さな酒場から忘れられてしまっていた。