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かわる

変る

豊島 与志雄

「知性」1942(昭和17)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,972 字 · 14 页

青空文庫

」

へんに低く、囁くような調子だった。

大五郎もふだんより低い声でいった。

「それはどうも。だが、なぜですか。」

「一昨日の晩か、春枝に十円おいてゆきなすったでしょう。すぐに追っかけたが、さっと行ってしまいなすったそうで、彼女は困っていました。まあ、そのお返しというわけですがね……。」

笑顔だが、底意ありげな言葉だった。大五郎は怪訝な眼付をした。

「このへんでは、ああいうことははやりませんよ。」

「ほう、はやらない……変ったもんですな。」

「あなたの方が変ったのでしょう。」

「いや、僅か五六年、変るもんですか。このへんが変った…いや、日本が、何もかも変ったようですな。」

「そう見えますか。どう変りました。」

どうといって、大五郎にははっきりいい現わせなかった。だが、おかしなことがある。先程まで、皆がふしぎに黙りこんでいたのが、大五郎の帽子や外套の絨毛が隅っこに引込んでからは、低い声があちこちに起って、春枝までが明るい笑い声をたてるのである。そちらを、大五郎はぐるりと見廻して、村井にいった。

「どうも、変りましたな。話をするにも、ひそひそ囁くような低い声だし、笑い声も、忍び笑いのようだし、いやに静かで、その上、隣りの人にも話しかけてはいけないしい。