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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

そして、出さなけれやそれで良い。」と、一人いうものがあった。

「生産額に従ってというんだの。個人割当なら話は分るが、村全体の生産額に従うなら、そんなら、真ん中のものの生産額に従うより仕様がないじゃないか。」と一人がいう。

「じゃ、真ん中以下のものは、また喰えなくなるぞ。同じことじゃ。」と、貧農らしい一人が云う。

「何しろ、去年の保証金も奨励金も、まだどっちも貰っちゃおらんじゃないか。政府は出したというし、おれたちは貰っちゃおらぬし、取り上げるだけは取り上げといて、くれるものは一つもくれぬのに、もう、今年の新米のさいそくとは、あんまり無茶じゃのう。なっちゃおらん。ほっとけほっとけ。」

そういうものらの云い方を綜合してみていて、私も少し去年から今年への推移が分って面白かった。すると、その横のものは、

「生れただけの米は、どう隠そうたって、隠せるものじゃないさ。ぴっちり分る。分る以上は、出してしまって、後の分は村内じゃ、どう闇をしようが、しまいが、かまわぬということにすれば良かろう。」

こう云ったものは、おそらく私のような農家に関係のないものが傍で話を聞いていたからだろう。