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よるのくつ

夜の靴

横光 利一

――木人夜穿靴去、石女暁冠帽帰(指月禅師)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 107,056 字 · 213 页

青空文庫

」

と清江は一言小声で洩しただけである。この婦人は、働くこと以外に夢を持たぬ堅実さで、私は来たその当夜、一瞥して感服したが、それは以後ずっと続いている。人の噂を聞き集めてみても、この清江のことを賞讃しないものはない。参右衛門はまことに妻運の良い男というべきだ。この点私は彼によほど負けている。

「どうもここの細君みたいな婦人は、一寸、見たことないね。それに顔立だって、よく見てみなさい。紋服でも着せて出そうものなら、東京のどこの式場へ出したって、じっと底光りして来るよ。」と私は妻に云った。

「そうね、あたしもそう思うわ。」

「ここにいる機会に、お前も少し勉強をするんだね。お前なんか、僕のあら探しで一生を費しちゃったんだが、そんなことせんもんだ。」と、私も田舎言葉になったりする。

「ほんと、あたしあなたのあらばかしより見えないんですもの。あなたは、あらばかしの人だわ。良いとこあるのかしら。」この批評家はうす笑いをもらしている。

「おれはこのごろ、人生はこういうものかと、少しばかり分って来たような気がするんだがね。辛いぞなかなか人生は――おれは毎日毎日、批評家からやっつけられ、右からも、左からもやっつけられ、内からは、またお前から毎日毎日だ。