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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
――ほら、あそこに……」
小沢は寄って行って、ベルを鳴らした。暫らくすると、女中が寝巻のままで起きて来て、玄関をあけた。
小沢は娘を表へ待たせて、一人はいって行くと、
「部屋あいてませんか。いくら高くても結構です」
と、言いながら、女中の手に素早く十円札を三枚掴ませた。復員した時、三百円の新円を貰っていたのだ。
「お一人ですか」
「いや、女と一緒です」
「どうぞ……」
新円の効き目だった。
小沢は娘を呼びに出た。
そして、娘を自分の背中にかくすようにして、はいった。
女中はちらりと娘をみたが、さすがに連込み宿らしく、うさん臭そうな眼付きもせず、二階の部屋へ二人を案内した。
鍵の掛る、粗末なダブル寝台のある洋風の部屋だった。
女中は案内すると、すぐ出て行ったが、やがて、お茶と寝巻を持って来た。
「お名前をこれに……」
小沢は自分の姓名を書いて渡そうとすると、
「こちらさんのお名前もご一緒に……」
と、椅子の上で体をすくめている娘の方は見ずに、女中は言った。
小沢はちらと娘の顔を見た。
「雪子……」
娘は察して言った。
小沢は自分の名前の横に「妻雪子 二十歳」と書いて、女中に渡すと、