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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

それに、履物がない。

「宿屋の女中さんに事情話して、著物貸して貰うかな」

「いや」

「どうして?」

「だって」

裸で来た理由を語るのは、あくまで避けたいらしかった。

「じゃ、どこか君の知っている所で著物貸してくれそうな所ないかね。君の使いになって、僕、行ってみるけど……」

「…………」

「ないのか」

「ええ」

「じゃ、僕が何とか工面して来てあげよう」

「お心当りありますのン?」

「まず、買うて来るより仕方がない。闇市……っていうのか、復員したばかりでよくは知らんが、そこへ行ったら売ってるんじゃないかな。金さえあれば、何でもあるってことだそうだから」

「でも、そんなお金……」

「大阪駅へ荷物預けて置いたんだ。毛布や何やかやあるから売れば金になるだろう」

「そんなン……気の毒ですわ」

「今から行って来るから、帰るまで待っていろ」

そう言って、小沢は出て行った。

その帰りを、雪子は待ち焦れているのだった。

勿論、著物を待っているのにはちがいないものの、しかし、何か恋人を待っているような甘い焦燥がないわけではなかった。

早く著物を持って帰ってくれれば、それを著て、そのまま小沢と別れて、いつも行くように、十時にハナヤへ行きたいと、思っていたが、しかし、小沢が帰って来ても、もはや何か小沢と離れがたいという気持もあった。