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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

途端に、男の青い腕が袖から覗いた。

その青さに、小沢はどきんとした。青い腕――と見えたのは、刺青だったのだ。

「さア、行こう」

コップを置くと、男は娘をうながして、外へ出た。娘はヒョロヒョロした足で、ついて行った。

その時、食堂の隅で古いラッパつきの蓄音機が鳴り出した。

まるで、唖でつんぼの娘が出て行くのを待っていた――といわんばかしに鳴り出したその音を聴いていると、何かしら奇妙な感じが、小沢の頭の中をぐるぐると廻った。

ラッパつきの蓄音機がチグハグなのか。時代おくれの刺青を見たことがチグハグなのか。それとも、ネオンサインが大阪の盛り場の夜空を赤・青・紫に染めていた頃の、昔の甘い浅薄な流行歌を、焼跡のバラック建の食堂の中で、白昼きいていることが、奇妙なのか。

いや、それよりも今ここを出て行った男の行動が、何か奇妙なような気がしてならなかった。

あの娘を何のためにどこへ連れて行くんだろう。飯ならここで食えるのに、物好きな……。

いや、単なる物好きだけだろうか。

へんだぞと、小沢は呟いた。

小沢は食堂の女を呼んで、きいた。

「今の人、いつも来るの……?」