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やこうちゅう
夜光虫
織田 作之助
「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页
はっと思った。
が、気のせいかも知れない。それとも、雨のせいだろうか……。
黒く蠢いたように思ったものの、一向に動き出して来る気配はなかった。
「……追われているわけでもないんだな」
そう呟いた途端、角の家の門灯がすっと消えた。
雨はますます激しくなってきた……。
小沢はどきんとした。
たった一つ点っていたその角の家の門燈が、突然消えたのには、何か意味がありそうだった。
あるいは偶然かも知れない。が偶然にしても不吉な偶然だと思った。
よしんば雨のための停電にせよ、まるでわざとのような停電のような気がした。
しかし、べつに何ごとも起らなかった。いきなり誰かが飛び掛って来そうな気配もない。
してみれば、ただ、門燈が何となく消えたというに過ぎなかったのだ。が、やはり不気味な予感は消えなかった。
とにかく、事情を明らかにすることだ。
「どうしたんです、一体……?」
小沢は自分にしがみついている娘に、そうきいた。
「…………」
娘は答えなかった。
「辻強盗に剥がれたんですか……?」
一糸もまとわぬ裸から、想像できるのは、わずかに辻強盗ぐらいなものだった。
小沢は外地から復員して、今夜やっと故郷の大阪へ帰って来たばかしだが、終戦後の都会や近郊の辻強盗の噂は、汽車の中できいて知っていた。