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やこうちゅう

夜光虫

織田 作之助

「大阪日日新聞」1947(昭和22)年5月24日~8月9日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 66,871 字 · 134 页

青空文庫

「…………」

娘はだまって首を振った。

「じゃ、どうしたんです……?」

娘はそれには答えず、

「早くどっかへ連れて行って下さい」

それもそうだ。一刻も早くここは立去った方が良さそうだと小沢はうなずいて、歩き出した。

娘は小沢が着せてやったレインコートにくるまっていたが、やはりその下の裸を気にしたような歩き方でついて来た。

「家はどこ……?」

「…………」

やはり娘はだまっていた。

「云ってくれないと、送って行きようがないじゃないか」

小沢はふと強い口調になった。

「何にもきかないで下さい」

娘はうなだれていた顔をひょいと上げて、小沢の顔を見上げた。

暗がりではっきり見えなかったが、娘の顔が半泣きらしいことは声で判った。ずっと家並みは続いていたが、停電のせいだろう、門燈は消えて、洩れて来る一筋の灯りもなく、真っ暗闇だった。

「この先に交番があった筈だが……」

と、小沢がふと呟くと、娘はびっくりしたように、

「交番へ行くのはいやです。お願いです」

と、小沢の腕を掴んだ。

「じゃ、どこへ行けばいいの……?」

「どこへでも……。あなたのお家でも……」

「だって、僕は宿なしだよ。