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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

その翌日には、六人の瀬戸物商人が中津川へ出張して来て、新規の問屋を立てることに談判を運んでしまった。

中津川の和泉屋は、半蔵から言えば親しい学友蜂谷香蔵の家である。その和泉屋が角十に替って問屋を引き受けるなぞも半蔵にとっては不思議な縁故のように思われた。もみにもんだこの事件が結局牛方の勝利に帰したことは、半蔵にいろいろなことを考えさせた。あらゆる問屋が考えて見なければならないような、こんな新事件は彼の足もとから動いて来ていた。ただ、彼ら、名もない民は、それを意識しなかったまでだ。

生みの母を求める心は、早くから半蔵を憂鬱にした。その心は友だちを慕わせ、師とする人を慕わせ、親のない村の子供にまで深い哀憐を寄せさせた。彼がまだ十八歳のころに、この馬籠の村民が木曾山の厳禁を犯して、多分の木を盗んだり背伐りをしたりしたという科で、村から六十一人もの罪人を出したことがある。その村民が彼の家の門内に呼びつけられて、福島から出張して来た役人の吟味を受けたことがある。彼は庭のすみの梨の木のかげに隠れて、腰繩手錠をかけられた不幸な村民を見ていたことがあるが、貧窮な黒鍬や小前のものを思う彼の心はすでにそのころから養われた。