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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
寿平次のようなよい連れがあるにしても、若い者二人ぎりではどうあろうかと言った。遠く江戸から横須賀辺までも出かけるには、伴の男を一人連れて行けと勧めた。当時の旅行者が馬や人足を雇い、一人でも多く連れのあるのをよろこび、なるべく隊伍をつくるようにしてこの街道を往ったり来たりするのも、それ相応の理由がなくてはかなわぬことを父は半蔵に指摘して見せた。
「ひとり旅のものは宿屋でも断わられるぜ。」
とも注意した。
かねて妻籠の本陣とも打ち合わせの上、出発の日取りも旧暦の十月上旬に繰りあげてあった。いよいよその日も近づいて、継母のおまんは半蔵のために青地の錦の守り袋を縫い、妻のお民は晒木綿の胴巻きなぞを縫ったが、それを見る半蔵の胸にはなんとなく前途の思いがおごそかに迫って来た。遠く行くほどのものは、河止めなぞの故障の起こらないかぎり、たとい強い風雨を冒しても必ず予定の宿まではたどり着けと言われているころだ。遊山半分にできる旅ではなかった。
「佐吉さん、お前は半蔵さまのお供だそうなのい。」
「あい、半蔵さまもそう言ってくれるし、大旦那からもお許しが出たで。」
おふきはだれよりも先に半蔵の門出を見送りに来て、もはや本陣の囲炉裏ばたのところで旅じたくをしている下男の佐吉を見つけた。