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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
一人の草鞋の紐が解けたと言えば、他の二人はそれを結ぶまで待った。
深い森林の光景がひらけた。妻籠から福島までの間は寿平次のよく知っている道で、福島の役所からの差紙でもあるおりには半蔵も父吉左衛門の代理としてこれまで幾たびとなく往来したことがある。幼い時分から街道を見る目を養われた半蔵らは、馬方や人足や駕籠かきなぞの隠れたところに流している汗を行く先に見つけた。九月から残った蠅は馬にも人にも取りついて、それだけでも木曾路の旅らしい思いをさせた。
「佐吉、どうだい。」
「おれは足は達者だが、お前さまは。」
「おれも歩くことは平気だ。」
寿平次と連れだって行く半蔵は佐吉を顧みて、こんな言葉をかわしては、また進んだ。
秋も過ぎ去りつつあった。色づいた霜葉は谷に満ちていた。季節が季節なら、木曾川の水流を利用して山から伐り出した材木を流しているさかんな活動のさまがその街道から望まれる。小谷狩にはややおそく、大川狩にはまだ早かった。河原には堰を造る日傭の群れの影もない。木鼻、木尻の作業もまだ始まっていない。諸役人が沿岸の警戒に出て、どうかすると、鉄砲まで持ち出して、盗木流材を取り締まろうとするような時でもない。