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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
半蔵らはかなりの時を待った。そのうちに、
「髪長、御一人。」
と乗り物のそばで起こる声を聞いた。駕籠で来た婦人はいくらかの袖の下を番人の妻に握らせて、型のように通行を許されたのだ。半蔵らの順番が来た。調べ所の壁に掛かる突棒、さす叉なぞのいかめしく目につくところで、階段の下に手をついて、かねて用意して来た手形を役人たちの前にささげるだけで済んだ。
菖助にも別れを告げて、半蔵がもう一度関所の方を振り返った時は、いかにすべてが形式的であるかをそこに見た。
鳥居峠はこの関所から宮の越、藪原二宿を越したところにある。風は冷たくても、日はかんかん照りつけた。前途の遠さは曲がりくねった坂道に行き悩んだ時よりも、かえってその高い峠の上に御嶽遙拝所なぞを見つけた時にあった。そこは木曾川の上流とも別れて行くところだ。
「寿平次さん、江戸から横須賀まで何里とか言いましたね。」
「十六里さ。わたしは道中記でそれを調べて置いた。」
「江戸までの里数を入れると、九十九里ですか。」
「まあ、ざっと百里というものでしょう。」
供の佐吉も、この主人らの話を引き取って、
「まだこれから先に木曾二宿もあるら。