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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
おもしろい丸帽をかぶり、辮髪をたれ下げ、金入れらしい袋を背負いながら、上陸する船客を今か今かと待ち受けているようなシナ人の両替商もある。
見ると、定紋のついた船印の旗を立てて、港の役人を乗せた船が外国船から漕ぎ帰って来た。そのあとから、二、三の艀が波に揺られながら岸の方へ近づいて来た。横浜とはどんなところかと内々想像して来たような目つきのもの、全く生い立ちを異にし気質を異にしたようなもの、本国から来たもの、東洋の植民地の方から来たもの、それらの雑多な冒険家が無遠慮に海から陸へ上がって来た。いずれも生命がけの西洋人ばかりだ。上陸するものの中にはまだ一人の婦人を見ない。中には、初めて日本の土を踏むと言いたそうに、連れの方を振り返るものもある。叔父甥なぞの間柄かと見えて、迎えるものと迎えらるるものとが男同志互いに抱き合うのもある。その二人は、寛斎や瑞見の見ている前で、熱烈な頬ずりをかわした。
瑞見はなかなかトボケた人で、この横浜を見に来たよりも、実は牛肉の試食に来たと白状する。こんな注文を出す客のことで、あちこち引っぱり回されるのは迷惑らしい上に、案内者側の寛斎の方でもなるべく日のあるうちに神奈川へ帰りたかった。