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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
01 第一部上
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页
飯田の在の伴野という村には、五十歳を迎えてから先師没後の門人に加わり、婦人ながらに勤王の運動に身を投じようとする松尾多勢子のような人も出て来た。おまけに、江戸には篤胤大人の祖述者をもって任ずる平田鉄胤のようなよい相続者があって、地方にある門人らを指導することを忘れていなかった。一切の入門者がみな篤胤没後の門人として取り扱われた。決して鉄胤の門人とは見なされなかった。半蔵にして見ると、彼はこの伊那地方の人たちを東美濃の同志に結びつける中央の位置に自分を見いだしたのである。賀茂真淵から本居宣長、本居宣長から平田篤胤と、諸大人の承け継ぎ承け継ぎして来たものを消えない学問の燈火にたとえるなら、彼は木曾のような深い山の中に住みながらも、一方には伊那の谷の方を望み、一方には親しい友だちのいる中津川から、落合、附智、久々里、大井、岩村、苗木なぞの美濃の方にまで、あそこにも、ここにもと、その燈火を数えて見ることができた。
当時の民間にある庄屋たちは、次第にその位置を自覚し始めた。さしあたり半蔵としては、父吉左衛門から青山の家を譲られる日のことを考えて見て、その心じたくをする必要があった。