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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

01 第一部上

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 205,629 字 · 408 页

青空文庫

そこいらが掘り返されるたびに、生々しい土の臭気が半蔵の鼻をつく。工事が始まったのだ。両村の百姓は、藪蚊の襲い来るのも忘れて、いずれも土塚の周囲に集合していた。

その時、背後から軽く半蔵の肩をたたくものがある。隣村妻籠の庄屋として立ち合いに来た寿平次が笑いながらそこに立っていた。

「寿平次さん、泊まっていったらどうです。」

「いや、きょうは連れがあるから帰ります。二里ぐらいの夜道はわけありません。」

半蔵と寿平次とがこんな言葉をかわすころは、山で日が暮れた。四番目の土塚を見分する時分には、松明をともして、ようやく見通しをつけたほど暗い。境界の中心と定めた樹木から、ある大石までの間に土手を掘る工事だけは、余儀なく翌日に延ばすことになった。

雨にさまたげられた日を間に置いて、翌々日にはまた両村の百姓が同じ場所に集合した。半蔵は妻籠からやって来る寿平次と一緒になって、境界の土手を掘る工事にまで立ち合った。一年越しにらみ合っていた両村の百姓も、いよいよ双方得心ということになり、長い山論もその時になって解決を告げた。

日暮れに近かった。半蔵は寿平次を誘いながら家路をさして帰って行った。